いいえ、『Volare』:ボラーレはイタリア語。

1958年のサン・レモ音楽祭で優勝した“ドメニコ・モドゥーニョ”の曲で、カンツォーネとしては唯一、アメリカのビルボードチャートで第1位を獲得しており、第1回グラミー賞最優秀楽曲賞にも選ばれた名曲です。

 

 ジプシーキングが歌って世界的に大ヒットし、日本ではCMソングとなって広く人気を集めました。

 

 残念なことに私はこのオリジナルのボラーレを聞いたことがないので、ジプシー・キングの歌っているイメージしか持たないのですが、彼らの歌う「ボラーレ」はとてもノリが良くて好きです。

 

 でもフラメンコではありません。

彼らが歌っているボラーレの歌詞は、スペイン語でも、アンダルシア訛りでもありません。

 

 ジプシー・キング当人達も、よもや「フラメンコアーティスト」だとは思っていないでしょうし、フラメンコアルティスタ側から見れば、全く想定外のことでしょう。

 

 では何故、日本では未だに「ジプシー・キング」や彼らの歌う曲が「フラメンコ」と混同されてしまっているのか。

 

 それは、日本の音楽界にイメージとして先行してしまっている「フラメンコ」と、実際の「フラメンコ」の普及率に差があること。それから、日本人にとってスペイン語、イタリア語、ポルトガル語は、非常に識別しにくい言語なので、それらの内、どれかひとつにでも通じていないと、全部、同じに聞こえてしまうこと。

この二つが特に大きな原因であろうと思われます。

 

 また、フラメンコのアルティスタには異文化や流行を取り入れるのを得意とする人も居て、ヒット曲になったものを自分達の出し物としてアレンジし、ショーを盛り上げるような所があります。

(勿論、その逆に頑固一徹、古いスタイルを遵守する人も居ます。)

 

 たとえば、日本人に良く知られている“ベサメ・ムーチョ”をフラメンコアレンジで歌っているスペイン人歌手も居ますが、それは、あくまで日本人に喜んでもらおうとするサービス精神がなせる技なので、受け止める側がそのことを判っておかないと、「フラメンコ」そのものに対する誤解が生じて広まってしまいます。

 

 私は、もし自分がイタリアを愛し、カンツォーネを愛する者であるならば、「ボラーレ」が「フラメンコ」と認識されることを悲しく思うでしょう。  

 

 「ジプシー・キング」は自分達流の「ボラーレ」を唄い、それを世界が受け入れました。

彼らの言葉はスペイン語でも、イタリア語でもなく、彼らの出身地南フランスで、歴史的にスペイン語が強く残ったある地域の言葉ということです。

その混ざり合った言語の個性こそが、「ボラーレ」が世界に広まったひとつの要因であるかも知れません。

 

 何故、「ボラーレ」について、こんなに詳しいかと申しますと、以前ある仕事で、お客様に「フラメンコと言えば、ボラーレだから、ぜひフィナーレは賑やかにボラーレを歌って欲しい」とリクエストされたことがあるのです。

 

 「フラメンコ」=「ボラーレ」という珍説に首を傾げながらも、そこは先述したように、お客さまあってのショーですから、サービス精神旺盛に「では、コピーしてみましょう」と引き受けました。

 

 それ以前には ♪ボラーレ~♪ というサビしか聞き覚えがなかったので、Volar:ボラール(飛ぶ)という動詞の活用にしてはヘンな所にアクセントがあるなあと思いつつも、きっと「スペイン語の唄」だと思い込んでいたのでした。

(volaré:ボラ直説法未来1人称単数なら有り。これはにアセントがある)

 

 ところが渡された歌詞カードと「曲」を聴いたら、さっぱり意味が判らず、どうやら「イタリア語」らしい。

似て非なるものほど識別が難しい上に、何度聞いても歌詞カードと実際の唄が食い違っています。

 

 フラメンコの歌詞なら、その食い違いを聞き取るのはほぼ大丈夫なのですが、イタリア語ではお手上げです。

でも、出鱈目に歌うのは嫌なので、西・伊2ヶ国語が判る人にネイティブチェックをお願いしました。

 

 返事は「これはスペイン語でも、イタリア語でもない」というものでした。

 

 誤解されていたお客様にも「原曲はイタリアのカンツォーネでフラメンコではない」ということをちゃんとお伝えしたのですが、まだまだジプシー・キングの音楽を「あれぞフラメンコ」と思っておられる方は多いようです。

 

 せっかくの名曲ですから、その原曲と、ヒットさせたグループのセンスを正しく評価する為にも「フラメンコ」というジャンルとは混同されずに、広く愛される方が良いように思います。

人は忘れるように出来ている

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